日本の祭りレポート
くろもりかぶき
住民は言います。“黒森には芝居の虫が棲みついていて、雪が降ると騒ぎだす”と。これは日枝神社へ奉納神事であり、農閑期に当たる時期に行われます。演目はおよそ60あり、その中から前年の3月に神籤(みくじ)によって出しものを選定。演者は地域の妻堂連中(さいどうれんちゅう)40名。観客は日枝神社の境内で降りしきる雪をかぶって湯たんぽ、毛布を膝に、弁当とお酒をやりつつ観劇。「雪中芝居」、「寒中芝居」といわれるゆえんです。全国にいくつかある地芝居でも、これほどの寒空で行うものは類をみません。何とも過酷にして味わい深い設定。素朴な農村歌舞伎の演技は観る者の心をほっこりさせてくれる温かさをかもし、その技量はまさにプロ。
【取材・文:苦田秀雄】
黒森歌舞伎は、山形県酒田市黒森地区に270年以上前から伝わる農村歌舞伎です。毎年、旧正月にあたる2月15・17日に日枝神社の祭礼で奉納されています。客席が屋外にあり、雪の降りしきる中、演じられる芝居は「雪中芝居」「寒中芝居」ともいわれ、出し物の多さ、スケールの大きさは全国屈指です。